2026年6月22日の杉江松恋
2026年6月22日。
杉江松恋が今月書かなければならない原稿、やらなければならない仕事は以下の通り。
レギュラー原稿:週刊2・隔週刊1・旬刊1・隔月刊1
イレギュラー原稿:書評1・文庫解説2
その他:動画撮影配信3・浪曲台本1、打ち合わせ2
家族は一日外出、私は在宅で過ごした21日だった。一念奮起して朝から頑張り、某下読みの選評をえいやっとすべて書いてしまう。終わって宅急便に原稿を引き取ってもらうともう夕方になっていた。そこでさらにもうひと頑張りして二つ原稿を終わらせた。これによってもらう選考料・原稿料を加算すると、6月末までに稼がなければならない金額への進捗率は63.39%になった。ようやく6割超えである。選考料のほうは正確ではないのだが、昨年の同じ仕事の額を入れて計算してあるので、大きな違いはないだろう。
前同比。今思いついて書いてみたが、ぜんどうひ、で一発変換はできなかった。今はどうなのかわからないが、右肩上がりが当たり前だった営業職員時代は前同比、つまり前年同期比で何パーセントというのを常に目標に設定されていた。これが部門の命運を分けるわけである。いくら稼いだとしても前同比100%に達しなければ成績不振扱いされる。だから一月の上がりを確保するため得意先に頼んで出荷を少し早めてもらう、といった商談は頻繁に発生していた。
逆に、売り上げが大きくなりすぎたので出荷を遅らせて、来月に回すということもやった。こっちのほうが多かったかもしれない。当時私は移動通信を扱う部門にいたので、前同比200%、極端なときは400%なんてこともざらにあった。市場の成長期だったのである。何年か連続で社長賞をもらっているが、私が腕利きだったのではなくて、扱っている商品が馬鹿でも売れる状態だったのだ。
この前同比の考え方は個人にも適用された。基本給は年齢給と能力給から成り立つが、このうち能力給は、個人が設定した努力目標をどれだけ達成したかで決まる。そういうルールの会社だったのだ。だから努力目標をあまり高く設定しすぎると自分の首を絞めることになる。かといって昨年と同じ、ぼちぼち、くらいにしておくと上司に詰められて、高く修正させられる羽目になるのであった。だから先輩から、あまり頑張りすぎるなよ、ほどほどにしておけ、と助言されることもあった。よく考えてみるとこれは、上の顔色を窺って下が二枚舌を使う隠蔽体質の温床になっていたような気がする。当時からあまり健全ではないと感じていた。私が会社員に向いていないと思った理由の一つである。
それはともかく、前同比だ。フリーランスになって前同比からはおさらばできた、と思ったのだが、そんなことはなかった。毎年、収入額が落ちる月というものがある。そういうときには昨年の帳簿を開き、去年の今月はいったいどれくらいの収入があっただろう、と何度も見直す。前年同期比で収入額を見て、ああ、そうだ、今はかつかつだけど、来月になったらあの仕事の原稿料がまとめて振りこまれるはずだ、と確認して胸を撫でおろす。そんなことを幾度したかわからない。前同比を忌み嫌っていた者が、前同比にすがっているわけである。
そういう仕事でもっとも情けない思いをしたのが、あれは何年前だろうか。毎年やっている仕事があって、その振込月に銀行口座を調べてみたら、入金がなかった。急いで担当者に連絡し、入っていないんですけど、と伝える。先方からの返事は、申し訳ありません、ではなくて、それでいいんです、来月です、だった。今年が遅れているのではなくて、昨年がたまたま処理が早まって一月前倒しになったのです、と。
目の前が真っ暗になった。その振込を当てにしていたのだ。駄目元で、頼んでみた。今月振込があるという前提でいろいろ予定していたのですが、昨年と同じで今月払ってもらうわけにはいかないでしょうか。答えは不可だった。
担当者は言った。どうしてもお困りでしたら、その分立て替えて私が振り込みましょうか。
それは前借りではなくて個人的な借金ではないか。さすがに年下(だった)の編集者にそんなことはさせられない。年下ではなくてもさせられない。断った。
あのときの帳尻合わせがどうなったのか、辛かったのか記憶がない。こういう事態がしばしば訪れるのがフリーランスの世界というものである。仕方ないのだ。
本日は仕事読書と原稿書きの日だが、午後に外出して重要な打ち合わせが一本ある。その後夜は某所の歓送会に出る。そういうものに出席するのはひさしぶりだ。

すでに登録済みの方は こちら
